こんにちは。株式会社TSIの船着(ふなつき)です。
海外での治験や現地パートナーとの契約が増える中、私が最近クライアント様からよくご相談を受けるのが、「もし海外で訴訟を起こされたら、うちの保険はちゃんと動くのか?」という不安です。
国内での事故対応であれば、多くの担当者様は流れをイメージできます。しかし「海外で、しかも訴訟という形で」となった途端、証券を読み直しても答えが見つからない、というケースが少なくありません。
今日は、海外訴訟のリスクに直面したときに確認すべき「保険証券のチェックポイント」を整理してお伝えします。
1.そもそも「その国」はカバーされているか――Territory(担保地域)条項
まず確認すべきは、証券の「Territory(担保地域)」条項です。
日本国内向けに設計された賠償責任保険の多くは、担保地域が「日本国内」または「世界(ただし北米・カナダを除く)」といった制限付きになっていることがあります。
米国は訴訟社会であり、懲罰的損害賠償(Punitive Damages)や高額な陪審評決のリスクがあるため、保険会社が北米を担保地域から除外、あるいは特別条件を付けているケースが非常に多いのです。
「海外治験をやっているから大丈夫」ではなく、「訴訟を起こされ得る国が、証券上のTerritoryに含まれているか」を、契約前に必ず確認する必要があります。
2.誰が弁護士を選び、誰が費用を払うのか――Duty to Defend の有無
海外訴訟で決定的に重要なのが、保険会社に「防御義務(Duty to Defend)」があるかどうかです。
- Duty to Defend型:保険会社が主導して現地弁護士を選任し、防御活動そのものを行う
- Duty to Indemnify(費用補償)型:被保険者側が自ら弁護士を手配し、後から保険会社に費用を請求する
この違いは、訴訟の初動対応の速さに直結します。海外での応訴期限は短く、現地弁護士の選定に時間がかかれば、それだけで不利な立場に置かれかねません。証券のどちらの型かを、平時のうちに把握しておくべきです。
3.判決・和解金は「誰の通貨」で、どう支払われるのか
海外訴訟で見落とされがちなのが、支払通貨と送金経路の問題です。
日本の保険会社が発行する証券であっても、現地通貨建てで判決や和解が確定するケースは多く、為替変動リスクや、現地への直接送金が可能かどうか(Admitted規制の問題)が実務上の壁になることがあります。
特に、現地に「Admitted(現地当局認可済み)」の保険会社が発行する証券(ローカル証券)を持たずに日本本社の証券だけで対応しようとすると、現地の裁判所や規制当局から保険金の支払い自体を認められない国も存在します。
4.懲罰的損害賠償(Punitive Damages)は補償対象か
これも国によって明暗が分かれるポイントです。
懲罰的損害賠償は、日本の公序良俗の観点から国内保険では補償対象外とされることが一般的ですが、海外で発生した懲罰的損害賠償について、どこまで担保するかは保険会社・商品ごとに設計が異なります。
米国での事業展開や治験を行う企業様には、この点を契約時に必ず確認いただくようお伝えしています。
5.訴訟費用は「保険金額の内枠」か「外枠」か
最後に、地味ながら実務上大きな差を生むのが、弁護士費用や訴訟費用が「保険金額(Limit of Liability)の中に含まれるのか(内枠)、それとも別枠で支払われるのか(外枠)」という点です。
海外訴訟は国内訴訟に比べて弁護士費用そのものが高額になりがちで、内枠設計の証券では、費用だけで保険金額の大部分を使い果たし、肝心の賠償金支払いに十分な枠が残らない、という事態も起こり得ます。
おわりに:訴訟が起きてからでは、証券は読み直せない
海外訴訟は、起きてから対応を検討していては手遅れになりやすい領域です。担保地域、防御義務の所在、支払通貨、懲罰的損害賠償の扱い、費用の内枠・外枠――これらは、平時に証券を読み込み、必要であれば保険会社と交渉して条件を整えておくべき事項です。
「海外の取引先や委託先とのトラブルが訴訟に発展した場合、うちの保険は本当に機能するのか」
少しでも不安を感じられた際は、証券の写しをお手元にご用意の上、お気軽にご相談ください。ライフサイエンス業界特有の海外リスクに精通した立場から、具体的な確認事項を一緒に整理いたします。
株式会社TSI 船着久稔



